2024-04-24T06:30:56Z #044 トビ岩

#044 トビ岩

低山しかない千葉県房総半島、その中で本格的な沢登りができると人気のある梨沢渓谷。その梨沢地区にはもう一つ知られた絶景眺望の地があります、その名はトビ岩。古くは江戸時代から続く地場産業の作業道や旧道など複数の登山道からアクセスできるトレッキングルートをご紹介します。

スゴログ トビ岩 物見塚 上白狐

千葉県│トビ岩

調査:2010年05月
再訪:2011年05月 / 2015年07月 / 2017年05月 / 2020年07月
公開:2011年11月15日
名称:正式名称→トビ岩
状態:2021年に再整備され木版設置

房総半島随一の絶景眺望地

2010年当時、房総半島では無類の美しさを誇った梨沢渓谷。現在では台風によって荒れ果ててしまいましたが同じ梨沢地区(相川地区)で同様に素晴らしい景観を保持した場所がありました、それが今回ご紹介するトビ岩です。


この地域では高齢化が進み、現住の方々は口を揃えて「昔は行ったけど今はもうしんどくて行けないねぇ」と。梨沢渓谷での製炭跡調査でたまたま聞き取りにお邪魔した妙蔵寺の住職の方から梨沢の他にもいい場所があると聞いて次の週には再びこの地へ。

事前に

・東京電力作業道ルート
・物見塚登山ルート
・上白狐登山口ルート
・旧作業道ルート
・エコー牧場ルート(立入禁止ゲートあり)

があることを確認、梨沢の製炭跡の調査と周辺産業の形跡も調べる予定だったので余り知られていない旧作業道からアプローチすることに。

このルートは途中から物見塚山ルートと合流しますが再び離れ、トビ岩直下に抜ける道です。現在ではその道筋が殆ど確認できないのでGPSを細かく目視しながら進むやや危険な行程、それでも昭和初期に人が通った形跡が見られて有意義な時間となりました。

この旧作業道の調査内容に関しては別途レポートを用意する予定なので気になる方はエントリーまで今暫くお待ち下さい、今回は物見塚山ルートから馬頭観音と壁龕石碑を写真に収める為にエコー牧場跡まで迂回して尾根を登り、ピーク沿いにトビ岩を目指す過程をお伝えしたいと思います。

参考までに各ルートの登山口をリンク。

一般的なアプローチルートは北側の旧別荘地からの東電の作業道(巡視路)経て枝尾根から主尾根を経由するルート、


南側の物見塚山から入山して稜線沿いに北上するルート、


西側から旧登山道の入口、上白狐登山口から北上するルート、


これに加え、一般的ではない旧作業道ルートが存在します。この旧道は地場産業や林業で使用されていた昭和初期以降は全く人が往来していない獣道のような行程です。


複数存在するアクセスルートとエコー牧場


スゴログ トビ岩 物見塚 上白狐


現在地はここ、エコー牧場跡の西端です。

エコー牧場は1980年代に運営されていた外部企業運営の牧場でかなりの敷地面積を誇っていました、一部東京電力の鉄塔管理用作業道と重なる為に人の出入りは多かったと聞きます。

地元の方にお話を聞くと「小さい頃はよく牧場の中で遊んだ、迷子になるくらい広かった」と地元の方には解放されていた様子。それが1980年代の内に廃業してそのまま廃墟化、現在に至るようです。

2014年08月に一度「開発用地」として売りに出されていますが交渉段階で売買成立は為されなかったようで土地所有者が別の不動産業者に譲渡、2015年現在(レポート当時)も変わらない姿を残しています。

注意点
掲載した写真は2019年の連続台風による被害です、2020年の再訪時は敷地内での倒木が非常に目立っておりました。

スゴログ トビ岩 物見塚 上白狐

このエコー牧場、整地が開始されたのが1960年代後半で70年代に入って本格的に牧場整備が開始されました。写真は1974年、まだ牧舎は建設されていません。この頃はまだ農地として利用されていたとの証言も。

スゴログ トビ岩 物見塚 上白狐

1981年には牧場として運用が行われています、これも定かではありませんが1980年に一度この土地が売却されて牧場が1981年にできたとの話もお聞きしました。

スゴログ トビ岩 物見塚 上白狐

1984年。使用敷地面積が広がり、牧舎も増えまています。

スゴログ トビ岩 物見塚 上白狐

1990年、航空写真では既に牧場が閉鎖されて自然に飲み込まれつつあります。1989年に廃業したようですがやはり情報源の正確性乏しく、この牧場に関する沿革は判明しませんでした。

規模のわりに歴史の浅いエコー牧場、実は相川地区・あ梨沢地区の水源でもある湊川水系の枝源流帯地域でもあります。何より牧場以前はその細い流れを利用して田畑を運用していたくらいです、それ故にこの地域の汚染は一体の水源汚染と同義。

牧場を運用する上での水質問題、これにより地元からは全くと愛されておらず、しかも水源一帯となる敷地が飼育動物の糞尿や農薬などで汚染されておく状況下。地域住民からは撤退案が行政に提出されるまでに、それが全てではないしろ牧場は廃業しその後水質は改善されたそうなので因果関係は少なからずあったのでしょう。

注意点
地元林業関係者と木更津の造園業者、妙蔵寺の住職さんから聞き取りした内容です。

閉鎖後の写真や実際に家畜が放牧されている写真を探したのですが見付からず、これと言った歴史に関する情報も詳細に関しては得られませんでした。

スゴログ トビ岩 物見塚 上白狐

2020年頃から簡易整備が入り、人の出入りが再び目立ち始めたエコー牧場跡。太陽光パネルの設置広報地として調査されているようですがトビ岩の最短ルートを繋ぐ道路があるので一般開通して頂ければ登山者としても非常に便利です、今後の動向も判り次第追記していきます。

スゴログ トビ岩 物見塚 上白狐

尾根に向かい、少し登ります。そこからピーク沿いと尾根下に分かれる分岐があるので先ずは旧登山道の尾根下へ、以前は解り易い道筋がありましたが2019年の台風以降は土砂崩れと倒木でやや歩き辛くなっています。

至る所に史的石仏が残る

スゴログ トビ岩 物見塚 上白狐

スゴログ トビ岩 物見塚 上白狐

一度深いブッシュに入り、そこを抜けると旧登山道へ合流します。

この道は風早山からの分岐でトビ岩に向かう尾根に迂回するルートとの交差地点でもあります、暫く歩くと馬頭観音と壁龕石碑が残されています。

スゴログ トビ岩 物見塚 上白狐

こちらが件の馬頭観音と壁龕石碑。有名なので詳細は割愛、馬頭観音に関しては以下参照。

馬頭観音 - ウィキペディア

因みにこの付近では他にも「磨崖仏」などをはじめ殆どウェブ上に挙がる事のないマイナーな石仏などが残されています、それぞれ設置時代が違っていてその文化的重要度も多岐に渡るのですがそれはまた別の機会に。

製炭の歴史検証を行った時に行政から頂いた資料、そして独自に調査した内容を加味するとこの相川・梨沢地区は非常に興味深い歴史を内包した地域と言えます。

愛宕神社と清遵法師入定塚、相川を挟んで対丘には巨岩群や城址、梨沢大滝不動など山岳信仰と土着の神の信仰が折り重なった宗教的な重要地域だった歴史も見てとれます。この辺に関しては上記の馬頭観音などを交えて何れご紹介しようと思います。

注意点
巨岩群(旧梨澤村)に関しては別途調査の上単独エントリーを予定、この巨岩と関連する山中の常代城跡も同様にその時に記載予定です。常代城の「トコシロ」は房総半島において古い城に命名される事が多かったと富津の郷土資料にも記載がある(梨沢字常代越・相川字古屋敷)、しかし現地その面影は一切ない。その城址と巨岩群の関連性を示す資料も発見されていますが詳細は今後の別レポートに記載致します。

スゴログ トビ岩 物見塚 上白狐

尾根に戻ります、因みにここから東側に歩を進めてトビ岩付近で直登することもできます。

スゴログ トビ岩 物見塚 上白狐

台風によって岩に根を張った尾根南側の岸壁沿いの樹木は軒並み捲れ上げっています、細いものから長い樹齢を感じさせる太い幹のものまで。記録的な台風だっただけに周囲の景観も一遍してしまい、元の絶景が戻るまでに3年掛かりました。

スゴログ トビ岩 物見塚 上白狐

地面事抉れた大木、根の部分が全て露出しています。この樹木は本来、尾根沿いに立っていたものです。

以前は尾根沿いを歩くだけでトビ岩に着きましたが現在は斜面や尾根の南側(崩落側)を行ったり来たり、特に崩落側を歩く場合は足元に留意して下さい。

眼前の絶景トビ岩

スゴログ トビ岩 物見塚 上白狐

トビ岩に到着、非常に美しい。房総半島では稀有な景観です。


トビ岩① - Spherical Image - RICOH THETA

北東に位置する風早山が標高192メートル、トビ岩は152メートルなのでやや低い。南側には228メートルの物見塚山が、それでもその眺望は本当に素晴らしい。

スゴログ トビ岩 物見塚 上白狐

スゴログ トビ岩 物見塚 上白狐

ロープを出して一度降下します、初心者レベルのクライミングですがフリクションノットで安全を確保しながらフリーで登り返してトビ岩全体の形状(地形など)を把握。

スゴログ トビ岩 物見塚 上白狐

トビ岩② - Spherical Image - RICOH THETA

テントを設置、野営の準備。

スゴログ トビ岩 物見塚 上白狐

スゴログ トビ岩 物見塚 上白狐

スゴログ トビ岩 物見塚 上白狐

トビ岩の名は1950年代には既に地元の方々に知られており、明治時代にもその名を口にする方がいたとか(現住の曾祖父から聞いたとヒアリング)。江戸時代後期には小規模な製炭産業がこの地にあったことから登山道と共に眺望地としては知られていた筈、しかし昭和に入ってから人の往来が少なくなったことや最短ルートに牧場ができ、企業所有の土地で自由に往来できなくなったことでトビ岩に訪れる人は少なくなりました。

それでも登山客に愛されたトビ岩、2019年の連続台風の被害は甚大でトビ岩から見える景観こそ戻りつつありますが作業道や登山道や荒廃したままの状態です。

梨沢では2017年に死亡事故も発生し、梨沢渓谷の入渓地からは案内看板は撤去され、新型コロナによる行動自粛によって更にこの地への来訪者は減少し続けています。

梨沢青年部の方々や地元NPO団体、有志による登山道などの再整備。復旧作業が行われていますがいまだ先の見えない長い道のりとなっており、現状での来訪は余りおススメ出来ない状況でもあります。

目立つ山の無い低丘陵地、房総半島。そんな中でこのトビ岩は沢山の人に是非見て欲しい素晴らしい絶景が残された数少ない自然の一つです、世情とアクセスルートが正常化した際には是非とも足を運んでほしい場所ですね。



最後にスゴログが房総半島に出向くと必ず立ち寄る素敵なカフェがあります、ラジオの収録や番組のロケでもお世話になった「音楽と珈琲の店 岬」、通称「岬カフェ」です。

音楽と珈琲の店 岬
〒299-1901 千葉県安房郡鋸南町元名1
0439-69-2109
1000~1700(年中無休)

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参考・協力

妙蔵寺
富津市市役所
富津市民会館
梨沢成年部会



レポートの場所



注意点

該当区域は管理されており、無断での進入する事は法律で禁止されています。また登山物件においては事前にルートの選定、充分な予備知識と装備で挑んでおります。熟練者が同行しない突発的な計画に基づく行動は控えて頂く様、宜しくお願い致します。

スゴログの装備とその使用方法など
https://www.sugolog.jp/p/blog-page.html




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