2024-03-11T08:28:25Z #045 南牧村立尾澤小中学校

#045 南牧村立尾澤小中学校

消滅可能性日本一と称されながら地道な地域再生活動を続けている愚直な山村、群馬県南牧村。その地域のランドマークとして愛された廃校がありました。南牧村立尾沢中学校跡です、都市部からの移住者や県内のNPO団体と共に地元に根付いた経済活動が失火により焼失しました。

スゴログ 廃校 南牧村立尾沢中学校

群馬県│南牧村立尾澤小中学校

調査:2010年06月
再訪:2013年05月
公開:2011年12月10日
名称:正式名称→南牧村立尾澤中学校
状態:2017年05月23日火災の為に消失

群馬県の地域紙と出版社との合同で取材に訪れた群馬県南牧村、近年では消滅可能性日本一という不名誉なマイナスイメージで知られる自治体です。日本創成会議が2014年に発表した消滅可能性都市は国内で869、その中で一番消滅の可能性が高いとされているのがこの南牧村。

スゴログ 廃校 南牧村立尾沢中学校

国税調査でも同自治体が高齢化率60%を超えて日本で一番高く、2017年の段階で総戸数1758の内368戸が空き家。人口推移も

1970年 7671人
2015年 1979人

となっており、出生率も全国で一番低い。消滅可能性都市としてすっかり定着した地域ではありますが歴史は長く、中で地域で愛されているランドマーク的な存在がありました。

南牧村立尾澤中学校跡。

取材後の2017年05月23日、学校跡に併設されていたレストラン潺のピザ窯から出火。その後朝までに旧校舎二棟が全焼し、尾澤中学校は消失しました。今回は2010年と2013年に来訪した際の記録を基に古くなった情報を精査選別して再構築、旧サイトでの掲載内容に加筆を加えてレポートします。


卒業生が地元に残るランドマーク的存在

尾澤中学としては1949年から歴史がスタートし、1988年に閉校を迎える39年間。そして以降NPO団体が使用し続け60余年の歴史を刻む校舎、地元にはこの学校の卒業生が今も尚現住していて地域の方からはランドマーク的な存在として親しまれていました。

地域の山村教育の場としては特筆すべき独自性はありませんがこの廃校が注目を集めたのはその廃校後から、既述のNPO団体である森の学校がこの校舎を地域再活性化の基軸として活用し始めた1995年以降のお話を致しましょう。

スゴログ 廃校 南牧村立尾沢中学校

1993年に結成された山村体験型環境教育プロジェクトとして「ハックルベリーくらぶ」が結成、1995年に尾澤中学校の校舎を借り受けて地域密着型の子供向け体験学習の場を確立すべく活動が本格化。これと同じくして名称を現在の「森の学校」に改称、特定非営利活動法人としての法人格の取得は2002年。

特定非営利活動法人 森の学校 - ウィキペディア

しかし2009年に栃木県那珂川町の廃校校舎を新たに借り受け、本拠地を移転。

ここで良く勘違いされがちなのは火災を発生させたのは別のNPO団体だということ、実は2009年の移転後に校舎は再び活用されることなく放置されていました。行政も転用用途を模索していましたがそこに名乗りをあげたのが「特定非営利活動法人 中山間地域フォーラム」でした。

特定非営利活動法人 中山間地域フォーラム

中山間地域フォーラムは自然体験基地「山森自然楽校南牧校」を発足、廃校舎の内の一棟を拠点として活動を開始。そして残るもう一棟、これが今回火災の原因となった「体験型農家レストラン潺」を運営していたぐんま山森自然楽校です。こちらの団体は2010年設立、どうやらボランティア団体なのでNPOなどの法人格は取得していないそう。

ぐんま山森自然楽校

尾澤中学校は普通教育棟と特別教育棟に分かれており、普通教育棟を中山間地域フォーラムが、特別教育棟をぐんま山森自然楽校がそれぞれ借り受けていたようです。

スゴログ 廃校 南牧村立尾沢中学校

普通教育棟、入口。中山間地域フォーラムの管理担当者との都合が合わず、この日は内部を撮影できず外観のみ。

写真は1階昇降口。

スゴログ 廃校 南牧村立尾沢中学校

斜面に建設されている為に1階と2階の高低差が随分とあります、特別教育棟から渡り階段を経由して直接2階にも行けました。

スゴログ 廃校 南牧村立尾沢中学校

ガラス窓から内部を1枚。

スゴログ 廃校 南牧村立尾沢中学校

特別教育棟、取材当時は体験型農家レストラン潺(せせらぎ)が営業していました。当時はわたし達の他にも上毛新聞さんや幾つかの地方局さんがいらっしゃっていました、消滅可能性日本一の山村での地域活性化の一環とって地域のニュースメディアが注目していたのでした。

スゴログ 廃校 南牧村立尾沢中学校

スゴログ 廃校 南牧村立尾沢中学校

1階部分もレストランの営業に耐える改装が施されています、特に窯周りと客席が設置されている中央の部屋は特に綺麗です。

スゴログ 廃校 南牧村立尾沢中学校

スゴログ 廃校 南牧村立尾沢中学校

2階部分は改装途中とのことで物置などに使用されていました、1階の暫定店舗に加え今後は2階も改装して広く活用していくとのお話でした。

スゴログ 廃校 南牧村立尾沢中学校

スゴログ 廃校 南牧村立尾沢中学校

スゴログ 廃校 南牧村立尾沢中学校

美しく清掃された階段。


安易な管理体制から出火

スゴログ 廃校 南牧村立尾沢中学校

2017年05月23日、レストランのピザ窯から出火し校舎は全焼。しかも隣接する普通教育棟にも延焼し、こちらも同じく全焼。一夜にして地元民に愛された木造校舎、尾澤中学校は消失しました。

当時のニュースサイトをアーカイブで幾つかリンクします。


「村の財産なくなった」惜しむ声 体験型農村レストラン全焼 群馬県南牧村
産経新聞

南牧の旧中学全焼 火元はレストラン 「村民財産」失う
上毛新聞

スゴログ 廃校 南牧村立尾沢中学校

普通教育棟は1949年、特別教育棟は1955年にそれぞれ建築された木造校舎。

出火の原因は安易な火の管理体制でした。

前日22日の21時まで窯に薪をくべていたようで消火せずに帰宅、これが日常的に行われておりました。木造校舎を改装してのピザ窯、勿論運営側は毎日の消火を指示していたそうです。

しかし窯の熱入れを面倒だと思い、いつしか消火しないことが恒常化したばかりか翌朝の手間を省く為に閉店後に薪をくべる行動が当たり前に。経営者の女性は移住組とのことですが地元を軽視した余りにも迂闊な管理体制だったと言えます。

この火災で近隣の6世帯が村民俗資料館に避難、同じ敷地で活動していた中山間地域フォーラムも一部資料や設備が校舎共に消失して一時活動が制限されました。

注意点
火災のあった2017年の10月には卒業生により同窓会も予定されていました


日本で最も消滅が近い村

スゴログ 廃校 南牧村立尾沢中学校

最盛期の航空写真、民家も多く子供も沢山いました。

冒頭でも触れましたがこの地域は65歳以上の割合を示す高齢化率は全国一で出生率も全国で一番低く、消滅可能性日本一の山村。

その活性化を望む地域住民の希望の一旦が潰え、その落胆はどれだけのものだったでしょう。現在もこの少子高齢化の傾向は続いており、尾澤中学校の火災はその点で重要な分水嶺だったと言えます。

「消滅する」と言われた村 「ここで暮らせるのはあと10年か」
日経新聞

「消滅可能性No.1」群馬県南牧村を訪ねて 「古里消さぬ」自然体で
西日本新聞

3人に2人が高齢者、群馬県南牧村から人が減った理由
ヤフーニュース


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参考・協力

南牧村役場
中央公民館
図書館はしばみ
南牧村民俗資料館
上毛新聞



レポートの場所



注意点

該当区域は管理されており、無断での進入する事は法律で禁止されています。また登山物件においては事前にルートの選定、充分な予備知識と装備で挑んでおります。熟練者が同行しない突発的な計画に基づく行動は控えて頂く様、宜しくお願い致します。

スゴログの装備とその使用方法など
https://www.sugolog.jp/p/blog-page.html