#010 開墾場の滝

スゴログ 開墾場の滝 奥米の滝

千葉県│開墾場の滝

調査:2008年07月 / 2009年10月 / 2010年/05月

標高の高い山岳地帯が皆無の房総半島、しかしその実は起伏に飛んだボルダーなフィールドが多数存在する。近年では冬季の登山練習の場に房総半島の人知れない沢を選ぶ登山愛好家も多いと聞く、山岳会経由でもチラホラと聞く房総の魅力だけれど県外の人間には耳に珍しい房総半島独特の人工造成された地形をご存知だろうか。以前ご紹介した、

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でも少し触れた千葉県独自の農耕造成法「川廻し」、今回はこの川廻しによって出来た素晴らしい人工滝をご紹介したいと思う。

既に有名に成ったとは言え、千葉県特有の造形美が突出したこの滝は是非とも多くの人に知ってもらいたいと思う。夏場はヤマビルの天国と化すこの場所、紅葉時期の美しさも添えてレポートしていこう。



スゴログ 開墾場の滝 奥米の滝

この滝を山仲間に教えて頂いた当事、2004年頃だったと記憶しているのだけれど下流から攻めて滝壺側から見上げるだけで特に興味を惹かれる事も無かった。既に川廻しなどは房総半島に無数に存在している事を知っていたし川廻しによる滝も実は珍しくも無いからだ、その間々通り過ぎて記憶も消え掛けていた2008年。

丁度上流側の三島湖の廃道調査をしていてついでに昔見た開墾場の滝を滝口から見ようと思い立った、皆さんこの滝へ赴く時に畑脇の入渓場所に向かわれるのだけれど実はピーク沿いを歩く最短ルートがある事を山仲間より教えて貰っていたので迷う事無くアプローチ開始。

以前は植林事業で使用されていた作業道でもあるのでピークを通る獣道は邪魔な樹木が伐採されて歩き易い。

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振り返るとこんな感じだ、薄くはあるけれど道筋はシッカリと残っていて迷う要素はない。左側の落ち込みは約20m程で滝より下流側と成る、流石に滑落したら怪我では済まない。

車のデポ地からアプローチを開始して、最初の急斜面以外は緩やかなこのルート。5分も歩けば目的の地、開墾場の滝へ到着だ。

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夏場の開墾場の滝、実に美しい。

※ 東日本大震災以前の写真なので崩落しておらず、美しい円穴を保持しています。

本来この場所はただ岸壁で河川は大きくUの字を描いて左後方へ迂回する、と言う地形だった。現在も旧河川では大雨が降るとその流れを取り戻すが通常は埋没しているか泥が堆積しており、歩く事も間々ならない。

そして珍しい特徴を一つ挙げるとするならばこの川廻し、農業造成の為でなくて林業の為に掘削された隧道だと言う事。房総半島の殆どは勿論農業用水の確保の為に造成された川廻しが大半を占めるのだけれどこの開墾場の滝は植林の為に川をバイパスした稀有な例と言えるのだ。

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三間川を含む開墾場の滝の位置関係は地図を参照してもらいたい、明治後期に植林地確保と林業用水の水路造成を目的に流れの負荷が激しい急ターンの場所を選出したと思われる。確かにこの場所で掘削を施して流れを変えればその勢いを利用して旧河川の造成処理は容易く済むと計算したのだろう、正にここしかないと言える掘削場所だったのだ。

掘削当事は流れが速く、また水量も現在の2倍以上あった様で周囲の岩盤状態を見れば色々と判別出来るだろう。水圧によって抉られた凹みのピークは現在の位置より2m程上部に、また上流側の両岸を見てもそれを実証する痕跡が見て取れる。

ウェブ上では高低差8mとあるが水量が減少した現在では凡そ11m強、掘削された隧道の高さは6m~7m弱程だ。滝壺は造成時に掘削した破岩が滞留して3m程の甌穴(水圧ではなくて岩や砂利によって形成したと思われる)型のプールが出来上がっている、微量ながら小魚なども確認出来た。

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※ ロールオーバーで画像を切り替えて下さい(PC閲覧時のみ)

明治中期まではこの様な地形だった、丁度滝造成地の手前で急旋回して小山を回り込む様に流れが在った筈。この小山を回り込む過程で少しづつ標高下げていき、本来の滝下の流れと合流していた。

この川廻しの造成後に実際植林は行われ、ここから切り出された木材が運び出されたと言う記録も残っていて周辺の住民も「そんな話を昔聞いた事がある」とヒアリング時に教えて頂いた。

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それでは斜面の状態がどんなモノか確認するとしよう、先人の残した残置ロープが在ったのでお借りする。本来設置時期や状態が明確化されていないロープは使用してならないが大した高低差でもなく、玉結びが施されていて腕の力だけで上り返しが可能だったので降りてみた。

※ 繰り返しますが残置使用は基本的に絶対に避けるべき行動です

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流れが在る所では若干のナメ、際を避けて苔で喰い付きの良い斜面を利用します。

滝上部の左岸からフリーで降下出来そうだったので草木を使って先に滝壺へ、水流が無いので迫力に欠けますが雨後の滝はそれはそれは大迫力の瀑布美を魅せてくれます。

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結局同行者には下まで降りて貰う事にして改めて8mmロープを上部の樹木に結束、途中作業姿勢でロックして撮影する為に待機してもらいました。

細かく確認すると滝自体には人工的に施工された痕跡が見られます、本来は現在の2/3程度の滝幅を想定して造成したものと予想され、流れの部分が若干抉られていますが水量が減った事で流れが平面化。現時の様に扇形に拡散した様です。

ただ流れ込みの両と水圧が減少した事で現在の隧道幅の3/5程しか落水した跡がなく、左岸側は完全に乾燥していて常時流れが弱いのだと判断出来た。

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滝壺から下流を望むと両岸にどうしても目が留まります、最低でも現在より1m程水位が高かった事が確認出来るし一時期はその倍以上の水位が在ったと見て取れます。

この様に沢歩きでは時間が経過して水位が加減しているのか、降雨量やダム放水などで加減しているのかを判断する事が出来ます。分析材料は岸壁の状態や岸壁水分の含有量、苔や樹木の茂る平均的な高さなどです。

また枝垂れている枝先が通常の樹木と変化が無ければその高さまで水量が増える事がないと判断出来ると仰る方もいますが近年の極々地域を限定した集中豪雨なども考慮して絶えず周囲を留意しながら歩く事をオススメします。

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滝向こうの旧河川の上流は間もなくして埋没します、少量の流れは本流からではなくて左岸からの湧水に因る物と思われます。

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明治後期の造成と言う事で人工滝としての歴史も浅く、比較的地域住民の家屋群から近い事も相まって人々の記憶から消え去る事はありませんでした。更に付け加えるならばこの滝に正式な呼称名称は存在しません、そう…無名の滝なのです。

現在通名として使用される「開墾場の滝」ですがこれは近年(1980年前後)になってから便宜上使われているに過ぎません、新聞などメディアの公式記載で公表された名称は地域の名称から「奥米の滝」と命名&表記されたのが近年史では初とされています。東京新聞(1978年08月14日発行)の地方欄にこの奥米の滝が紹介されており、しかしこれも便宜上の名称に過ぎず…実に困った滝でもあるのです。

開墾場と言う言葉もこの地が林業の為の川廻しとなるとやはり正しくはありません、せめて農業型の川廻しであれば問題無かったのですが…。



最後に紅葉時期の姿をご紹介して終わりましょう。

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房総半島の紅葉は全国的にも非常に遅く、見頃は11月後半から12月中旬。それも常緑樹が多い千葉県においては美しい紅葉を見る事はとても難しいと言えるでしょう、したがってどうしても温度差が顕著な山間部の湖や河川沿いを狙うと言う事に成ります。房総半島でも有名な紅葉の景勝地は幾つかありますがこの開墾場の滝、人知れず実に美しい紅葉を魅せてくれます。

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見頃は12月に入ってから、少々早い時期に綺麗な紅葉を見るも良し。少し遅めに来訪して滝壺に踊る無数の落葉に酔うも良し、そして滅多に見る事は叶いませんが雪化粧したこの滝は房総とは思えない絶景を約束してくれるでしょう。

震災以降は上部の岩盤が剥がれ落ちて少々危険な状態が続いています、行かれる方は頭上の注意をお忘れなく。



【レポートの場所】



【注意点】

該当区域は管理されており、無断での進入する事は法律で禁止されています。また登山物件においては事前にルートの選定、充分な予備知識と装備で挑んでおります。熟練者が同行しない突発的な計画に基づく行動は控えて頂く様、宜しくお願い致します。

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