2024-04-24T07:06:40Z #053 竜山鉱山

#053 竜山鉱山

北は津山からも遠く、南は赤穂からも遠い。そんな山深い中に地域を代表する大規模な鉱山がありました、旺盛時には鉱山夫住宅が幾軒も並んだのは半世紀以上前の事。現在は大自然に飲み込まれつつも歴史ある鉱山跡をご紹介します、蜂と虻に追いかけられながら現地調査したレポートをじっくりとお楽しみください。

スゴログ 廃墟 竜山鉱山

岡山県│竜山鉱山

調査:2012年08月 / 2016年08月
公開:2012年10月22日
名称:竜山鉱山
状態:長期間放置

旧サイトで公開していたレポート内容を2023年現在の調査内容に統合して再エントリーしました。また古くなった情報などは精査して削除しております。

尚、掲載写真は2012年当時の解像度が低いものは削除して2016年に再調査した際のものに差し替えてあります。



非常に古くから知られている岡山の山中に残る鉱山廃墟があります、付近に家や施設などは無い為にこの場所へ行くには正確な地理情報が必要となります。崩落寸前の選鉱所や事務所など、今でも見所は沢山あります。

大自然に囲まれた竜山鉱山の歴史を少しだけ紐解いてみましょう。

掘削開始が定かではない謎多き鉱山


スゴログ 廃墟 竜山鉱山

まずはこの竜山鉱山を俯瞰で位置確認、試用している航空写真は1974年時で既に稼働は停止された後の姿です。この時点で既に大多数の関連施設が解体されており、それも当然で鉱山の稼働停止が1961年ということを考慮すれば13年もの間これだけ残存していたと驚く。

スゴログ 廃墟 竜山鉱山

2000年代以降も廃墟として残っているのは鉱山事務所、消防車庫、選鉱場、それに水没した第一坑口。他は半世紀以上の月日の間に自然に飲み込まれ、または崩落してしまいました。

今回手が届く範囲で現地を見分、竜山鉱山で一番有名な鉱山事務所からお邪魔するとしましょう。

スゴログ 廃墟 竜山鉱山

スゴログ 廃墟 竜山鉱山

この鉱山事務所には生活感が溢れた日用品が残されていますが実は鉱山稼働時はれっきとした事務所としてのみ運用されていました、住宅跡と勘違いされるのは鉱山閉鎖後に別会社へ売却された際に購入企業の管理人が暫く常駐していたから。

スゴログ 廃墟 竜山鉱山

スゴログ 廃墟 竜山鉱山

つまり残されている生活用品は竜山鉱山稼働時のものではないということです、詳細は後述しますがこの管理人は売却後20年間以上、たった一人で常駐業務に就いていました。


事務所前には自転車置き場があり、数台の自転車が駐輪できたとか。竜山鉱山は意外と広いですから鉱山の施設間や通勤には自転車が使われたのでしょう。

この事務所の隣にも実は残された建造物があります。


当初外トイレかと思いましたが物置のようです、冬場の燃料置場などにも使われたのかもしれません。


スゴログ 廃墟 竜山鉱山

この鉱山事務所は何度か増改築されており、売却後の管理人常駐時には風呂などがあった為、どの時期かは判りませんが半住居としての役割を担っていたのかもしれません。Youtubeに貴重な2階部分を撮影した動画が残されていたので掲載します。


更にその左隣には消防用具が収納されていた倉庫、それに小型消防車が2台駐車できるカーポートが残されています。

これらは鉱山売却時に管理人が使用する為に解体されずに使用され続けたと聞き取り調査で判りました、それでは何故選鉱場は残されたのか。この疑問にも後ほど迫ります。

注意点
1964年の航空写真を確認する限り、既に関連施設は解体されています。1962年の鉱山売却時にその殆ど撤去、後に第一坑口は水没して第二坑口は埋没しました。

井戸水は鉱山廃水で汚染されていた?

スゴログ 廃墟 竜山鉱山

近代鉱山においては当然基準を設けた排水と除染システムが構築されていますが竜山鉱山は1800年代後半から稼働している古い鉱山、それ故運営当初から鉱山廃水による生活用水の危険性は指摘されていました。

1900年初頭、付近の農家は同じ水源から供給される自然水に疑問をもっており、鉱山側に水質調査を願い出たことがあったとか。日本の棚田百選にも選ばれている上籾の棚田はやや距離がはなれているものの当時は小規模棚田や田園が肩を並べる場所でもあります、山深いと言っても地方農業としては隣接とて過言ではない距離感で水が重要な役割を果たす稲作がこの竜山にもありました。

鉱山夫たちも事務所の井戸水は余り好んで飲まず、水筒を持参していたとこれも聞き取り調査で耳にした話です。

この話の顛末を知ることは今回の調査ではできませんでしたが休廃止鉱山においても継続流出する坑内水や積物崩壊により流出は鉱害問題でよく取り上げれれます。

鉱山周辺域や下流帯の農業及び住民の不安はこの半世紀で取り除かれたとは言い難いのかもしれません、この件については調査継続中です。


事務所、消防施設と過ぎて路上対面に残るのは設備倉庫です。この倉庫は1957年の設備拡張工事の際に建造された竜山鉱山としては晩年の建造物、コーポートも同時期のものでしょうか。

因みに現在は廃止された竜山バス、その路線上にこの竜山鉱山付近もルートとして設定されており「住宅前」というバス停もありました。


これは2014年のストリートビュー、中央に写っているのが竜山バスの「住宅前」のバス停。既にご紹介した鉱山事務所からは随分と距離があるように思われますがそれもその筈。

鉱山夫たちの住宅は正しくこのバス停の直ぐそばににありました。

スゴログ 廃墟 竜山鉱山

この地図を参照して再度現在の同じ場所へ。


左の枝へ入ると竜山鉱山ですがバス停手前と枝奥の右側斜面に鉱山夫たちの戸建て住宅と連棟住宅がありました、当時の銅山や鉱山は花形で掘れば儲かると日本各地で鉱山が活気を見せていました。仕事はとても辛いものでしたが一般家庭より遥かに裕福な経済状況だったと予想できます。

しかし1960年から1961年にかけて急激に需要が激減、仕事が無くなった鉱山夫たちを周囲の一般家庭へ大工や電気施工として派遣する苦し紛れの一手を打ちますがこちらも長くは続かず。中には別業種である農業を手伝ったとの証言も、結局1962年の事業売却となりました。



資料性の高い木造の選鉱場


スゴログ 廃墟 竜山鉱山

スゴログ 廃墟 竜山鉱山

鉱山事務所から移動して選鉱場へ、最初の来訪した時はまだ屋根がありましたが2016年に再訪した時には崩落していました。

この竜山鉱山は大変珍しい木造選鉱場です、国内にはまだ幾つか木造の鉱山が残されていますが近代鉱山で一山築いた企業が多い中で古くから稼働していたこの竜山鉱山。それ故に当時でも時代遅れな木造の選鉱場というやや危険な鉱山施設でもありました。

注意点
この木造建築の中には小規模ながら発電施設が併設されていました

スゴログ 廃墟 竜山鉱山

それでは少しこの竜山鉱山の歴史を辿ってみましょうか。

岡山県と旧久米郡教育会(現・久米南町教育委員会)によれば最初期の発見は183年代で本格稼動したのは記録としては1869年から。当初は「宇都宮鉱業所」の竜山選鉱場として運用が開始され、少しづつその生産量を拡大していきます。

現在の木造廃墟群は全盛期の1935年からこの鉱山を運営した昭和鉱山(現・昭和KED)が事業拡大の為に整備した名残り、つまり現存するのは1935年~1936年辺りに建造された昭和初期(昭和10年頃)のものとなります。

スゴログ 廃墟 竜山鉱山

現在残る選鉱場の北側で最初の鉱脈が発見されて坑口が開かれると斜面を少しづつ切り開いて選鉱場が建造されます、谷底まで行かないと平地がない地形の為に効率化を考慮して斜面を利用したのでしょう。

構造的には峰之沢鉱山の住宅群のようでもあります。

注意点
竜山鉱山の鉱床については「岡山県竜山鉱山および鉱床(http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I9049366-00)を参照されると良いでしょう。

選鉱場は段階的3階構造で隣接するようにホッパーや鉱山軌道(トロッコ)が敷設されていました、トロッコレールは現在も少しだけ残っていますが藪漕ぎ必須。

第一坑口や第二坑口の他にも旧坑が数箇所確認されていて選鉱場から北西側にも北東側にもまだ穴を開けています、半水没旧坑もあるので探索にはそれなりの覚悟と準備が必要ですが余りお勧めできません。また夏場は旧坑の半分は発見が困難だと断言しましょう、北側斜面には旧坑由来と考察できるズリ場も。

スゴログ 廃墟 竜山鉱山

この鉱山の鉱脈発見が何年なのか、関連書籍にも記載はないのでやはり詳細は不明ということになります。1830年代、久米南町地区に複数の鉱山が発見されたことだけは確か。

1869年、宇都宮鉱業所が本格的にこの場所の開発に着手して竜山鉱山の歴史が始まります。当時の宇都宮鉱業所が着もしたのは複数産出される鉱物の中の銅でした、そうこの鉱山の主要鉱物は「銅」なのです。

1935年、戦後の財閥解体で解散した森コンツェルンの属企業として前年に産声をあげた昭和鉱業株式会社がこの竜山鉱山を買収。運営が切り替わります、しかし採石量は年々減少し10年余で鉱山での採算を諦めます。

1948年には採石終了を宣言、利益がある選鉱場業務は継続されます。この判断は事業好転となり、付近の同社運営鉱山(睦合鉱山・鰐淵鉱山・大久喜鉱山・三永鉱山など)からの受け入れで1957年には稼動限界を超えた為に設備を増設拡張。

注意点
同社以外の鉱山・銅山からも受け入れていました


スゴログ 廃墟 竜山鉱山

1960年代に突入すると俗にいうエネルギー革命期に、鉱物産業は石炭を含めて物価上昇に伴う採掘コスト、石油の値下がりに由来する業界全体の経営悪化が顕著になります。

1961年、需要が著しく減少した為に閉山、選鉱所も休止に。不良債権と化したこの竜山鉱山は二束三文で売りに出され、中本商事が鉱区のみを購入して管理人1人を常駐させます。

この管理人が冒頭の鉱山事務所を管理人住宅として使用したその人です、この管理人が何の為に常駐していたのかは判明せず。周辺にて聞き取り調査も行いましたが存在自体をご存知の方がいらっしゃいませんでした。

1962年から常駐していた管理人ですが1984年に死去、鉱山事務所も閉鎖されました。

この地区には別企業の鉱山も複数存在しており、神目鉱山・亀山鉱山など3つ鉱床が隣接する地域で特に神目鉱山はズリ場が重複するほどご近所さん。それでも晩年期は何処も採算が取れずに閉山しています、面白いのは殆ど隣接する鉱山なのに採取される鉱石が違うこと。

竜山鉱山は銅、神目鉱山はオカリナイト、亀山鉱山は黄銅鉱・方鉛鉱・閃亜鉛鉱・石英などでした。

スゴログ 廃墟 竜山鉱山

1830年 久米南町地区に複数の鉱山が発見される
1869年 宇都宮鉱業所が管理を開始して「竜山鉱山」として運用スタート
1935年 昭和鉱業(現・昭和KED)が買収して運営が切り替わる
1948年 採石量の減少により採掘を終了、選鉱所としては継続運用
1957年 選鉱場の稼動限界を超えた為に設備を増設拡張
1962年 昭和鉱業が鉱山を売却(売却部分以外は撤退開始)
1962年 中本商事が鉱区のみを購入、管理人1人を常駐させる
1984年 管理人死去の為に鉱山事務所を閉鎖

行政から提供された資料を見ると旧勝田町(現・美作市)の八幡銅山からも委託を受けて産出した銅を処理していたことが記されています。これらに加え、事業拡大の為に三井金属鉱業株式会社から精錬を受注(委託精錬)していたので元々の選鉱所の稼動限界を迎えたのも予想に容易いでしょう。

同じ岡山県だけに受注もし易く、また地方鉱山としては規模が比較的大きかった事も寄与した要因だった委託業務。採掘終了後においては業績を支える貴重な形態改革だったと言えます。

スゴログ 廃墟 竜山鉱山

鉱山事務所を閉鎖後、結局再活用のロードマップも提示されないまま中本商事もこの鉱区から手を引きました。現在の竜山鉱山は鉱山事務所と選鉱場が残るばかりですが選鉱場の崩落は凄まじく、もう三割程度に。それすらいつ全壊するか判断が難しく、立入は非常に危険です。

行政による解体などは予定されておらず、このまま少しづつ朽ちていくのでしょう。


Youtubeにこの竜山鉱山をドローン撮影した動画があったので掲載します。



重機倉庫があった場所の対面には小規模なホッパーらしき建造物が残ります、1975年の航空写真を確認すると第一坑口から坑道整備された跡がこのホッパーへ一直線に延びています。

上部斜面を藪漕ぎすれば何か発見できる可能性はありますが現状、歩くのは不可能です。



この場所から小規模な採石置場に行けたようです、ズリだったのか純粋に過剰採石保留だったかはわかりません。ズリ山自体は第一坑口の更に北側にその存在を見てとれます。



スゴログ 廃墟 竜山鉱山

竜山鉱山は渓谷の狭間のそれも出合というかなり特殊ば位置関係で東側背面は両子山の複雑な脈形によって開発を制限された鉱山でした、潤沢だった鉱脈も100年余りで掘り尽くし、眼前を流れる川は鉱山廃水の問題を抱えたまま閉山。

閉山後も活用を試みるも失敗し、後年は廃墟同然の扱い。しかし歴史ある故に解き明かされていない疑問点も多く、今後の追加調査の余白もあるでしょう。

以上で竜山鉱山のレポートは一旦終了となります、今後の追加情報はこのページにて記載していきます。

余談ですが竜山鉱山の川の出合、それぞれ別の名称がありまして出合から北側を旭川水系清水川・西側を同水系今井谷側・南側を同水系中田川といいます。この三本の川が鉱山前で丁度合流していますが開発前はもう一本合流していたのだとか、古地図も確認しましたがそのような河川は確認できず。

そういえば北側の小規模ホッパーへの坑道跡が川だったとの証言もあり、それがその消滅した川だった可能性も拭えません。

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参考・協力

岡山県
久米南町役場教育委員会教育課
久米南町図書館
資源地質学会
岡山県竜山鉱山の地質および鉱床/著・岩本昇海
久米南町の民話/著・立石憲利
坑廃水処理の原理/経済産業省
鉱山廃水による鉱害の防止/環境省
休廃止鉱山の坑廃水処理/産業技術総合研究所
米南町上籾地区
米南町中籾地区
南町上神目地区



レポートの場所


注意点

該当区域は管理されており、無断での進入する事は法律で禁止されています。また登山物件においては事前にルートの選定、充分な予備知識と装備で挑んでおります。熟練者が同行しない突発的な計画に基づく行動は控えて頂く様、宜しくお願い致します。

スゴログの装備とその使用方法など
https://www.sugolog.jp/p/blog-page.html



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