#003 翁島ペンション

スゴログ 翁島ペンション

福島県│翁島ペンション

調査:2009年12月 / 2010年02月 / 2013年10月

調査時おばけペンションやグリーンランドなど多様な呼称がされておりましたが行政からの情報提供により翁島ペンションと判明、その後正式名称を公開しました。現在ではほぼ物件名が統一されたので併記を取りやめて翁島ペンションのみの表記と致します。



2010年に公開したこの翁島ペンション、積雪のこの物件を撮影したのは恐らく他に見る事が無い愚行だったと言えます。その位アプローチが大変で実は危険だったと、ただそれに引き換え初めて見る事が出来たこの廃墟の雪化粧は大変美しい物でした。肝試しスポットとして有名ではありましたが現地付近お歴史に興味が沸き、長期間に渡って調査した力作レポートとなっております。

2013年以降の新情報はありませんが是非ご覧頂ければと思います。

スゴログ 翁島ペンション

足元には2メートルを越す新雪が、この時はスノーシューを用意していなかった為に少しづつ足場を固めて牛歩の如く進むしか方法はありませんでした。さらさらのパウダースノーは少し力を入れると底なし沼の様に沈み込み、非常に危険でした。

スゴログ 翁島ペンション



ペンションの眼前までの行程で既にヘトヘトではありましたがまずは概観をグルッと見分、アチコチと壁は抜けて二階部分の屋根は一部崩落しておりました。積雪に対応する様に建設されてはいる筈ですが長年の放置期間の為に内外問わずかなり傷んでいる事が解ります。

スゴログ 翁島ペンション

完全に入口部分は埋もれてしまっており、雪掻きをしながら正面口へ。

最初に断言しておきますがこの物件、肝試しの方などが噂として挙げる

・地下のワインセラーでオーナーが自殺
・暖炉の前でオーナー首吊り自殺

などの与太話、これらの事実は一切ありません。そもそも元オーナーさんは別の土地でこの場所とは全く関係のない事業を成されています。そして地下への入口もありません、観光地などで宿泊施設を建設場合は避難経路などの関係で関連各所へ建造物の設計図を提出します。それらに関係する書類や設計図にも地下は描かれておらず、未だこの様な噂を流布され続けている理由も不明です。

スゴログ 翁島ペンション

来訪時、この敷地の手前に住む方と同行したが「昔は何も無いただの雑草地」、「それが70年代に入って急に観光地化の話が立ち上がった」と情報を提供して頂いた。結果、その手掛かりのお陰で当時の不動産業者や関係者を見つける事が出来たのはとても幸運でそこからは一本の紐を辿る様な調査に。

また夏場は地元の子供達が肝試しで度々やってくる事や一度小火騒ぎがあった事、最近では県外からネットの普及によって沢山訪れる事などをお聞きする事が出来た。

スゴログ 翁島ペンション

有名な暖炉、構造がシンプル故に簡易整備で使用可能な状態だった。どうやら先程の小火騒ぎの実状はこの暖炉でに可燃物を入れて火を起こして煙突から煙が昇り、それを見付けた近隣住民が通報した様だ。

この場所、以前はより大きな悪戯描きがされていて2010年の時点では左側にのみ大きく残っていた。その後2011年にペンキでレンガと同色に塗りつぶされ、更に2012年には一面印刷物で埋められると言う何とも忙しない経過を辿る。2018年現在はその印刷物が剥がれ落ち、また以前の様な状態へ戻りつつある様だ。

スゴログ 翁島ペンション

煙突部分のステーは朽ちており、倒壊の可能性も。一応天井部分で強固に固定されてはいたがその天井部分の崩落が懸念される昨今、建造物としての寿命が迫っている事に違いはない。

スゴログ 翁島ペンション

地元の方の話では一時期は本当に工事車両が頻繁に往来したとか、そしてその理由は先程の情報提供から判明する調査結果に収束される。これは後程お伝えするとしよう。

スゴログ 翁島ペンション

それでは二階へ上がるとしよう、因みに手摺は朽ちて崩落していた。後の調査で判明したがエントランスとロビーを兼ねた吹き抜け部分の手摺は階段と二階部分を含めて全て木製だった様で、廃墟化して早い段階で腐ってしまったと聞く。

暖炉周辺は比較的高温になる可能性があった訳で安全性の高い鉄製より熱伝導率が低い木製を選んだと言う訳だ。

スゴログ 翁島ペンション

成程、言われてみれば階段部分にもロビーの際にも手摺のベースや穴がない。これは木製の手摺をベースと一緒に設置していた証拠にもなる。

ところでこの翁島ペンション、冒頭の様に実に沢山の呼び名があった。「おばけペンション」、「幽霊ペンション」、「グリーンランド」などなど…現地には「翁島ペンション」と印刷されたスリッパが散乱しているにも関わらずだ。そこでスゴログはその手の噂に終止符を打つ為にこの地を管轄する行政に問い合わせてみた。

猪苗代町役場の総務課と税務課の見解としてはこの建造物の建設当初から「個人宅」などとは認識してはおらず、商用施設(宿泊施設)としています。ただ運用形態など詳細な事に関しては一切関知把握しておらず現在に至るとの事、届出として「翁島ペンション」が登録されている事から間違いなくこの物件は「翁島ペンション」だと言えます。

また「一家惨殺」や「一家自殺」などの物騒な噂も以前はありましたが商用施設として建設されているので個人が居住したいた事実も否定されました、根拠のない空言には耳を貸さない事です。

スゴログ 翁島ペンション

二階部分、全体的に風化が進んでいて営業当時に想いを馳せる事は叶いません。

スゴログ 翁島ペンション

観て解るとおり、この物件は軽量鉄骨で建設されています。これには幾つか理由があり、中でも一番の懸念材料が建設当時充分な予算がなかった事。この翁島ペンションの周囲は森に囲まれていますが大型車両が通過できる舗装がされていませんでした、精々一般車がギリギリすれ違える程度の車幅です。

地盤工事の為の大型重機が入る為には随分と手前から道路整備する必要があり、また手前には私設牧場があった事から動物への騒音被害などを懸念して軽量鉄骨での建設になりました。

これによって当初大型の宿泊施設群を計画していた不動産企業は練り直しを余儀なくされ、またその影響をが全てではありませんが観光地計画は破綻して行く事になります。

スゴログ 翁島ペンション

二階部分のトイレ、薄日が差し込み叙情的です。

スゴログ 翁島ペンション

一階に戻って来ました、かなりの部分が雪で覆われています。既に予想されていると思いますがこの建造物の崩壊の犯人、それは雪です。

スゴログ 翁島ペンション

こちらは風呂、とても小さいです。

スゴログ 翁島ペンション

西側食堂部分、雪が雪崩れ込んでいますが鹿やタヌキの足跡が複数見受けられました。自然の動物達にとって人工物の廃墟とはどの様に映るのか、人間にとっても危険な存在ですから大きな崩落が起きる前に解体する方が良いでしょう。

スゴログ 翁島ペンション

年代が合わないパチンコ筐体、不法投棄と思われる。



さて、そろそろこの翁島ペンションの確信に迫ってみるとしましょうか。

調査当初は正式名称も定かでは無かったこの物件、猪苗代町役場でも正確に営業の経緯を把握しておらずこの時点で解っているのは名称と着工届けなどの関連書類に記された少ない記録のみ。

が、レポート内でもお伝えした同行して頂いた現地の方のお話から調査は急展開します。更に複数の地元民の方からのヒアリングを交えてこの物件の歴史を追う事にしましょう。

まずは提供情報で判明した既に廃業してしまった猪苗代町の元不動産会社の関係者さんに辿り伝でお話を伺った、そこから判明したのは意外な事実でした。

翁島の観光開発

1973年位から猪苗代町周辺の本格的な観光地開発が計画され、既に温泉やスキーと言った集客スポットに加えて宿泊施設を増やそうと言う動きが翁島で持ち上がる。この時点ではまだ場所などの選定はされておらず、また地元住民が密集する場所は避ける形で計画は進められて行った。

地元の方のお話から判明する計画の雑多な部分

翁島周辺、実は大きく二つに別けられる。一つは既に整備されている田園地帯、猪苗代湖北西側には平地が広がっていて翁島周辺は田んぼだらけと言っても良い。残りの一つはその田んぼや畑の持ち主で在る地元住民の住宅街だ、1970年代前半において現在と大して変わらない風景が既に出来上がっていた事に成る。

と、すれば。

宿泊施設を建設する場所は本当に限られてくる、行政区分で管理されている自然保護推奨区と国有地、既にゴルフ場建設などの計画で抑えられている広い未開発地域を除くと地元住民の住宅街と隣接する小さな廃農家跡地や個人所有の森林地域しか残されていない。

まあ話の流れから解るとは思うのだけれど白羽の矢が立った場所、それがこの廃墟を生む事に成る翁島ペンション周辺の森林地域。

話を聞いた住民の方を含め、宿泊施設建設に余り良い印象は持っていなかったそうで。元々閑静な農村地帯から少しづつ発展した土地だけに余所者が頻繁に往来する事に反対だった様だ。

しかし行政としては手順を踏んだ建設の申請に許可を出すのは当然の事でして、1976年にはとうとう最初の宿泊施設建設が開始されます。

そう、ココで注目して欲しいのは「最初の宿泊施設」と言う言葉。

廃業した地元の不動産会社さんに話を聞く

これ、実は全く別の雑誌の仕事でお知り合いに成りまして。そこからたまたまこの地域の温泉宿の広報を手掛けた時にお話を聞いたのが実際の所だったりします。

さて。

後の翁島ペンションと成る「最初の宿泊施設」の建設が開始されたのが1976年、建設に携わった建設会社や不動産会社の方ではないのであくまでその内容を知りえた人物とだけお断りしておこう。

建設場所はご存知の通り、まずは最近の航空写真を見て頂こう。



現在では森に囲まれ、南側は畑として綺麗に整備されているが開発が始まった当時は北側同様に木々に囲まれた鬱蒼とした区画だった。この場所に急遽アスファルトが敷かれ、伐採と地盤整備が急ピッチで進む事に成る。

この時の工事がレポート内の「一時期は本当に工事車両が頻繁に往来した」と言う発言に繋がる、しかし整備されたのは地盤工事を行わない簡易舗装でしかも車幅は狭い。これは企画した不動産業者の観光地としての期待値が実はあまり高く無かったのではないかとも取れるが邪推だろうか。

状況把握を進めよう。

グーグルマップでも解ると思うけれどペンション北側に森の中を走る人工的なラインが見える筈だ、実はこれがアスファルトの道路跡。既に腐葉土で積み重ねられた土壌の下にはボロボロのアスファルトが目を出す筈だ。

スゴログ 翁島ペンション

国土地理院の地図では少々の高低差が、ペンション南側に向かってやや登りと成る。住宅が並ぶ生活道路から伸びる造成地への一本道は緩やかにカーブを描いて登っていたと記憶しているけれど地図で見れば一目瞭然、それではどの様な開発が予定されていたのかを具体的にお伝えしよう。

スゴログ 翁島ペンション

1976年9月の航空写真、1976年5月辺りから工事が始まり翌月には土台が完成。そこから鉄骨が組まれていき9月でこの状態です、一般的な工事の進行状況からすると随分と遅いと感じます。

道路は北側のみにアスファルトが敷かれ、南側の大規模ペンションの建設区画は綺麗に造成が終わっています。翁島ペンションはまだ基礎工事の段階ですね、この時点でガスや水道の工事もほぼ完了していた様です。

スゴログ 翁島ペンション

1963年の状態では森すら存在していません、ただの雑草地です。これも地域の方のヒアリングと一致します、そう…そこで疑問に思いませんか。

たった10年で森に成長するほど樹木の成長速度は早いのか、と。

先程のグーグルマップをもう一度確認してみて下さい、そうです…この宿泊私設の周囲だけが紅葉していませんか。そうなのです、この紅葉は計算されて「紅葉」しているのです、つまりこの一帯の森は植林によって作られた森でもあるわけです。常緑主が多い地域だった為にこの宿泊施設の周囲だけを紅葉する落葉時で植林、これが実は観光地化の第一歩でもありました。

北側と南側も勿論植林ですが宿泊施設から見えない為に低予算で植林出来る樹木が選出されています。

スゴログ 翁島ペンション

再び1976年の建設途中の航空写真、そこへ開発が予定されていた道路の完成予定図と翁島ペンションを含む全9棟の宿泊施設群の予想図を重ねてみた。当初は更に南側まで道路が延びる計画だったけれど畑の地主さんが売却を拒んだそうで。

東側の建造物が少ない事、他に比べて小さい事はやはり近隣住民と何かしらのトラブルあったと予想出来る。しかしこう見てみると翁島ペンションは予定されていた宿泊施設群の中では最小クラスに見える。

スゴログ 翁島ペンション

計画とは違い、実際敷かれた道路は予定の約60%。建設途中で南側の大規模なペンションの建造は保留される事に成ります、これは1977年辺りから企業主導の観光開発から行政主導の観光開発にこの地域がシフトして行く為に当初の参入業者が建設を取りやめた事で開発区画が縮小された結果だとお聞きしました。

そして他の建設予定だった宿泊施設の参入業者も次々にこの計画から手を引き始めます。

スゴログ 翁島ペンション

未確認情報ですが裏手の広い部分にはテニスコートが予定されていたとか、1980年代後半までは凄い人気だったので強ちただの噂でも無さそうです。結局は「テニスコート」→「駐車場」→開発中止と衰退の一途へ、現在ではこの部分も自然に飲みこれてしまいました。

確認出来た情報では1976年の10月時で二階の屋根の工事を行っています、この地域は積雪地帯ですからいくら遅い工事でも60日以下で上物は完成しないと不味い状況です。

その後営業に辿り着けているので恐らくは完成し、翌年から営業が開始された筈です。この地の開発までの歴史を辿る事は出来ましたが頓挫した宿泊施設群のその後やたった一軒だけでどれだけ営業が継続出来たのか…など残された謎は少なくありません。最終調査は2013年でストップしていますがどんな小さな情報でも構いません、何かお知りの方がいらっしゃいましたら是非情報提供をお願い致します。

スゴログ 翁島ペンション

福島では有名物件と成ってしまったこの翁島ペンション、廃墟としての旬は過ぎてしまいましたが歴史を紐解く作業はまだまだ続きそうです。

【参考・協力】

猪苗代町役場総務課・税務課
猪苗代観光協会
磐梯猪苗代民宿組合
全国宅地建物取引業協会連合会



レポートの場所】



【注意点】

該当区域は管理されており、無断での進入する事は法律で禁止されています。また登山物件においては事前にルートの選定、充分な予備知識と装備で挑んでおります。熟練者が同行しない突発的な計画に基づく行動は控えて頂く様、宜しくお願い致します。

このエントリーをはてなブックマークに追加