2020-03-27T22:09:14Z #026 霊仙 入谷集落

#026 霊仙 入谷集落

廃村の奥深さと歴史的背景の興味深さに気付かせて頂いた貴重な廃村群、それが滋賀県の山中に残されている霊仙廃村群です。高齢化、離村、そして廃村と高度成長期に影で問題となった山岳産業とそこに住む人々の背景に迫ります。最初は入谷集落へ向います、急斜面にへばり付く坂道からのアプローチが特徴的です。

スゴログ 入谷集落 廃村
滋賀県│入谷集落

調査:2010年06月
再訪:2010年10月 / 2011年05月 / 2012年7月
公開:2010年11月02日
名称:正式名称→入谷集落
状態:離村した住民による保護活動が継続中

旧サイトで複数回に分けて公開していたレポート内容を2012年現在の調査内容に統合して再エントリーしました。また古くなった情報などは精査して削除しております。


西日本では有数の廃村群を抱える霊仙山麓

日本国内における高度成長期が終わり、2000年代に入り人口比率が高齢化の一途を辿っている事は多くの方が知る所です。現在でも過疎化する集落は沢山ありますがそれよりずっと前、時代は昭和の前半から中盤にかけて実に多くの過疎化集落や廃村が生まれたのでした。しかもそれは全国的に問題視され、都市部の機能一点集中化や労働層の流失など関連する諸問題を多岐に渡り抱えた状況が今も尚続いているのです。

当時の時代背景はもとより、近代化が進んだ高度成長期にこそその原因があったケースも多い、それはやはり利便性を優先した都市部の更なる都市化と労働環境など差異がもたらした人々の生活スタイルの変化も内包しているようです。

今回訪れた滋賀県の山中にひっそりと存在する廃集落群、現在でも少ないながら幾ばくか人の出入りが。これは元々居住していた村民であったりその家族であったり、または周辺地域の協力者だったりします。

その廃村の歴史的背景を追いながら、現在日本が抱える地方過疎化問題とその波に飲み込まれてしまった廃集落の現状をお伝えしたいと思います。


スゴログ 入谷集落 廃村

彦根ICから数十分、登山ではそこそこ有名な霊仙山の登山道へ向かう細い道。国道306号線から県道17号線へ、この道が私達向う廃村群への唯一ルート。

暫くと走ると幾つかの分岐を経て不思議な風景に出会う、人気の無い山中の道路両脇に倉庫連なって設置されている場所がそうだ。古い手作りの標識には「入谷入口」とも、どうやら今回の廃集落群訪問の最初の目的地、入谷(にゅうだに)集落の入口のようです。

注意点
このアクセスルートの途中には廃村といえる集落規模に至らないまでも幾つかの廃屋(1軒~3軒程度)の居住跡も散見できます、つまり集落毎の離村や廃村化というより地域全体での人の流出が顕著だったことがわかります。

スゴログ 入谷集落 廃村

この霊仙(りょうぜん)と言う山深い地域では結構な数の集落が存在していまして、現在でも過疎化は急速に進んでいますが幾つかの集落には僅かに人が居住しています。その霊仙の集落の中でも隣接し合う集落群が入谷(にゅうだに)、今畑(いまはた)、落合(おちあい)と呼ばれる三つの集落です。

近代の行政記録では江戸後期から文献を確認でき、明治7年にはこの三つの集落が合併して霊仙村(現在の多賀町)が誕生しています。

注意点
複数の集落が集まる理由はこの一帯の山岳地域を行き来する為の生活道路(産業道路)が延びていた為、複数の文献や資料では江戸時代の記載もありますが元々は更に旧い時代から簡易整備されていたようです。現在ではその内の主要道が登山道として再整備されており、登山客の往来が頻繁にあります。

スゴログ 入谷集落 廃村

集落への進入口は驚くほどの急斜面

入口から50メートルほど、車で走るにしても傾斜が厳しい坂を無理矢理駆け上ると集落が見えてきました。

集落自体は最初の家屋から最上部の廃屋跡まで100メートルも在りません、しかしこの廃村は急斜面にへばり付くような立地条件で実に興味深い場所です。居住地の開墾もさぞ困難だっただろうことは容易に想像できます、村内中央のメインアクセスとなる道路の急傾斜をみればそれがよく理解できました。

村内ですが完全な放置集落では無く、春先から初秋に掛けてはこの場所の出身者の方々が畑や家屋の手入れに訪れるようです、また倒壊した家屋の撤去なども行うそうで。冬季は完全な無人になるそうですがそれ以外の期間は無人の集落へ配線された送電線を経由して街灯が照らされるなど、なんとも表現が難しい雰囲気がそこにはあります。

スゴログ 入谷集落 廃村

急斜面に作られた集落なので横に延びる私道も急勾配、家と家を繋ぐ道や排水溝なども工夫して作られています。1990年代に形式的に無人化へ、古かった公共インフラは停止、現在では道も側溝も全て自然に還ろうとしています。

スゴログ 入谷集落 廃村

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生活の跡を伺い知れる物が村内の中に沢山残されています、昔ながらの集落ではトイレは基本的に外(厠)で流し台や釜、風呂なども外に設置されている場合が多く見られます。

また火を使う物は材料の節減と効率化で隣り合わせで作る事も多いようで浴槽と釜などが一緒に作られている箇所が散見できました。

注意点
旧い山村跡などでは稀にみられる形式です、同一の熱源から複数の結果をもたらす生活の知恵がみてとれました。これは雪深い地域の為に薪を得る手段や期間が短い為の工夫と思われます。

スゴログ 入谷集落 廃村

失われていく集落の歴史

急勾配で在りながらのこの平地、作るには多くの時間と人力が必要だったと村民の方にお聞きしました。

お話を伺ったのは20年前まで居住(季節限定の半居住)されていた老齢の男性とその息子さん、平地開墾の苦労は祖父(老齢男性の)からお聞きしたそうで今では知る者も少ないとか。失われた物語は多いのでしょうがそれを知る関係者の数も年々減少し、元住民の方でさえ行政記録などで過去の情報を得るのだとか。

この家の裏手では廃屋の補修作業と木材の切断作業の途中と思われる資材置き場がありました、今でもこの場所を大切に思っている村民によるものでした。

スゴログ 入谷集落 廃村

各家屋の入口の階段でさえこの勾配、集落入口の舗装道路など恐ろしく急で軽トラか四輪駆動でないとスリップの連続です。この危なっかしい道は未舗装だった集落本道を迂回工事せずにその間々舗装した結果だとか、住民が沢山住んでいた当時も軽い事故は沢山あったようです。

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入谷に限らずこの地域には同じ集落内に寺と神社が同居している場合が多く見受けられました、この写真(左側の建造物)は集落入口の浄土真宗本願寺派の了眼寺。

注意点
来訪時の2010年はやや放置気味の風体でしたが近年補修などの手が入っているそうです。

スゴログ 入谷集落 廃村

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こちらは集落の最上部(資料ではまだ上層区画あった筈ですが確認できる範囲で言えば現在はこの辺りが最上部)に位置する立派な鳥居が迎えてくれる谷神社、やはり神様の社は上層に置くのは山岳集落において変わらない信仰の表れなのでしょう。



入谷の地名は米原の丹生との関わりも深く、また豊富な水源を水の神として信仰したものと推測できますが詳細は資料を浚っても判明しませんでした。管理されている観光課や行政にも問い合わせたましたが回答はこちらの所有している情報と大して変わらず、さらに調査を進めれば把握しきれていない土着文化や歴史が残されている可能性は大きいでしょう。

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特徴としては大きな集落ですが姓は少ないことでしょうか、「大久保」、「西坊」の二つだけのようです、旺盛時には五つほどの姓が混在しようでその中にはどの霊仙廃村群でも必ず目にすることになる「藤井」姓もあったのだとか、これに関しては今後エントリーする霊仙廃村シリーズでお話して行くとしましょうか。

さて、最後に現地で気になってた点を机上調査で明らかに。それは他の霊仙廃村群と比べると入谷集落の建築物が幾ばくか新しいということ、これは他の廃村を歩いて感じた相違点でした。

答えは古い新聞記事に。

”百五十年目の大火” 霊仙入谷集落での大火災

実は1955年08月、この集落は家屋や倉庫を含めて26棟あった建造物の内2棟を残して全焼する火事に見舞われていたのでした。これには正直少々驚いた、しかも当時は大々的に報道されていたにも関わらず現在では知る者が極端に少ない。

住人の殆どが道路が完備されていない当時の山道を落合集落まで歩いて逃げ延びたと新聞の記事には記載されており、本来ならこの時点で廃村となってもおかしくない状況だったようだ。

幸いこの火災による集落人口の推移は無く、復興が進んだそう。しかしそれも短い期間で終焉を迎えます、1975年~1985年の10年間で住民の数は10分の1に減少。急激な過疎化進んだ、これは高度成長期からバブルに突入時期と重なる。つまりは近代化の波と言えば解り易いだろうか、村民もより便利で収入が安定する都市部へ流れていってしまったのだ。

そうは言ってもこの地域における入谷集落はまだ新しい廃村です、故に現在にその歴史を残すことができたともいえるのでしょうね。最後に入口付近の倉庫群ですが集落の方達が使用する農耕具や産業(林業)関連道具が収納されているとのこと、しかしお話を聞いた村民の方は「もう何年も扉は開いてないねぇ」と仰っていました。

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参考・協力

彦根市役所
多賀町役場
多賀町立図書館
多賀大社
一般社団法人多賀観光協会



レポートの場所



注意点

該当区域は管理されており、無断での進入する事は法律で禁止されています。また登山物件においては事前にルートの選定、充分な予備知識と装備で挑んでおります。熟練者が同行しない突発的な計画に基づく行動は控えて頂く様、宜しくお願い致します。

スゴログの装備とその使用方法など
https://www.sugolog.jp/p/blog-page.html



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